万葉の花とみどり
あしび    馬酔木 安志妣    アシビ

磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど
    見すべき君がありと言はなくに
                  大来皇女 巻二 166
『読み』いそのうえにおうるあしびをたおらめど みすべききみがありといわなくに
『歌意』磯のそばに生える馬酔木を手に取ってみようと思うのだが、それを見せてやりたいあの弟がまだ生きていると、誰も言ってはくれない。



春先に白い房状の花をつける

鮮烈な心境を歌に
 歌の作者である大来皇女(おおくのひめみこ)は、天武天皇亡き後、草壁皇子と皇位継承を争うことになった大津皇子の姉。弟の大津皇子は学識、身体とも優れていましたが、686年10月、草壁皇子に対する謀反の疑いをかけられ無念の刑死を遂げてしまいます。可憐な花をつける馬酔木に、皇位をめぐる骨肉の争いの結果、弟を奪われた姉女の心境が鮮烈に詠み込まれているように思えます。
 万葉には馬酔木を詠んだ歌が10首あり、多くは美しい花を讃えているものですが、その後の平安以降の歌人には、あまり良いイメージを持たれなかったようです。気取った平安宮廷人は、樹全体に毒素を持つ馬酔木から、「悪(あ)し木」とでも連想したのかもしれません。奈良時代から毒素の存在は知られていたので、自然の力を愛でる万葉歌人との感性の違いとも言えそうです。
なお、冒頭の歌は、弟の処刑後、皇女が大和に一時帰郷した11月頃の時の歌なので、直接的には花を詠んだものではないと思われます。次の歌は3月初旬に咲く馬酔木の花の美しさを愛でたもの。

我が背子に我が恋ふらくは奥山の 馬酔木の花の今盛りなり
                  作者不詳 巻十 一九〇三


冒頭歌にある磯に群生する馬酔木のイメージ

各地の山林に自生 桃色の花は園芸種

古来より自生
 アシビは、本州以南の全国に自生するツツジ科の樹木。古来より存在が確認され、特に奈良地方に多く群生するものは、意図的に植え込まれたものとも考えられます。京都には、樹齢数百年の古木群もあるとか。馬酔木の名は、樹全体が毒(アセボトキン)を持ち、馬のような大型の動物でもそれを口にすれば、痺れて酔ったようにふらふらになることに由来します。馬が本当に口にするかは不明ですが、古くは殺虫剤として便所など虫のわく場所で使われていたことも。

スズランのようなの可憐な白花 花かと見間違う赤い若葉

楽しみ多い常緑樹
 優れてい冬の寒さがゆるみ、いよいよ春かなと思ったころ、スズランに似た飾り物のような可憐な花を一気に咲かせます。房状の花や、葉が放射状にがついているところなどはどことなく西洋的で、古くから自生し万葉に詠まれた植物とは思えないような雰囲気を持っています。また、よく緑に映える新芽、秋に伸びてくる細長い数珠状の花房、花後はかわいい実もつけるところなど、一年を通じて変化を楽しむことができる植物です。うまくはさみを入れ植形をデザインすれば、大株に育てても楽しめます。基本的に山野草であり、乾燥に強く、日照が不足気味の場所でも、毎年春にはきれいな花をつけてくれます。


赤く細長い数珠状の花房  先に小さな実をつける


管理者『妬持』の声:アシビは樹のすべての部分が毒素を含んでおり、自然の殺虫剤として利用することもできます。花、茎、葉を適量きざんで煮出し汁を作り、霧吹きを使ってソラマメについた春先のしつこいアブラムシを駆除には効果がありました。


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