万葉の花とみどり
 ふぢばかま フヂバカマ  藤袴
 
 萩の花尾花葛花矍麦の花
    女郎花また藤袴朝貌の花
              山上憶良 巻八 1538

『読み』つくばねのにいくわまよのきぬはあれど きみがみけしあやにきほしも
『歌意』筑波山の新しい桑の葉で飼った蚕の繭糸で作った絹は確かに良い物ですが、私はあなたの身につけた衣が無性に恋しいです。



秋の七種としてのみ登場
 山上憶良が「秋の野の花を詠む歌」として詠み込んでいます。フジバカマが取り上げられているのは、万葉集四千五百歌のうち、ただこれ一首のみ。かの憶良が秋の七草としてあげた植物にしてはあまりにも寂しい気はします。確かに、オミナエシやハギ、ナデシコに比べると、花の派手さでは見劣りはしますが、紅紫色の小さなつぼみが開き始めると雌しべの先が白く長く伸び目立ち、茎をしっかり上に向けて野に立つ姿はなかなかのものです。作者の憶良は役人でしたが、馬に乗って大和の野山を駆け回る自由人でもありました。時たま群生するフヂバカマに出会い、野生の魅力を見い出し、秋の野に咲く七種としてこの花を選んだに違いないでしょう。

花弁が藤色の袴で強い芳香を放つ
 福島県から九州まで、山林や山地、川岸の土手に生育するキク科ヒヨドリバナ属の多年草。奈良時代以前に薬草として、中国から帰化した人々と一緒に渡来したものと考えられています。フヂバカマの名は、藤色の花に、袴状の花弁を持つことによります。茎や葉に香りの成分(クマリン)を含み、花の一枝をかんざしにしたり、利尿に効果がある薬草としても重宝されていたようです。花が咲く前に、逆さに吊るしドライフラワーにするとよい香りが楽しめます。押し花にしておくと、本を手にするだけで相当な芳香を感じるほどです。

蘭(あららぎ)物語
 フヂバカマは全草が香るので蘭草とも言われ、その名は古く日本書紀に「蘭(アララギ)物語」として登場します。允恭天皇皇后が姫の頃の話、姫が蘭草の植わっている庭にいたとき、ある男からその蘭を求められます。姫が何に使うのかと問うと、ハエを払うのに使うのだと言い残し、例も言わず立ち去ってしまいます。しかし、後に再会した際、姫は男の謝罪を受け入れ、無礼な行いを許したという話が語られているのです。

絶滅が危惧される
 地味だ地味だと言われながらも魅力いっぱいのフヂバカマですが、最近は絶滅が心配されるほどにその数を減らしています。もともと、低地河川沿いの草地に生る植物ですが、開発造成に伴う土壌の乾燥化が進み、生育環境が悪化していることが主因のようです。また、ススキやセイタカアワダチソウのような草丈が高く荒れ地好きの植物に押されていることもあるようです。公園などで保護された姿でしか目にすることができなくなる日も、そう遠くないことのように思えます。


管理者『妬持』の声
 さる方より、最近のフヂバカマは園芸用とし売られている輸入種が多いとのご指摘頂きました。区別は専門家でないとかなり難しそうです。


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