み熊野の浦の浜木綿(はまゆう)百重(ももえ)なす

心は()えど(ただ)()わぬかも   

柿本人麻呂 巻四・496   

「読み」みくまののうらのはまゆうももえなす こころはもえどただにあわぬかも

「歌意」熊野の浜の浦にハマユウが咲いている。波打つように花のように心は動かされるのだが、すぐには逢うことにはためらってしまう。



浜に波打つ木綿にたとえられる

「百重なす」の表現ですが、花や葉が幾重にも重なる様子、あるいは海の波をたとえたものなど諸説ある。高ぶっては治まりを繰り返す心の乱れとみるならば、重なりあうたくさんの緑葉を詠み込んだものと考える方が自然かもしれない。ハマユウ(浜木綿:Crinum asiaticum)はヒガンバナ科多年草。名は、花が木綿(ふゆ=古代から神事などに用いられた布)を垂らしたようであることに由来するらしい。別名ハマオモトとしても知られる。温暖な海浜に自生し、太平洋沿岸地域の都市の道ばたや公園、庭でよく見かける植物である。茎は太くまっすぐに上に伸び、夏から花茎を出し、先端に多数の花を散るようにつける。ヒガンバナ科であり、花が6弁なのと根には毒性のある物質が含まれることもヒガンバナと共通している。開花後は丸く厚い皮を持つ種子ができるが、この種は海を長い期間漂流することが可能という。また、水がなくても発芽して、砂地でも根を張るので、沿岸部に広く分布している理由もよくわかる。


妬持の声

浜木綿の花ことばは「どこか遠くに」だそうですが、種子はコルク質のため海流に乗ってかなり遠くに運ばれることも少なくないといいます。海なし県に居住のこの身には、あまりなじみのない植物ではありますが、意識さえしていれば以外に多くの場所で目にすることができます。画像は、ぱっと見白ヒガンバナのような花に気づいて撮影したもの。



  大伴妬持