万葉の花とみどり
 つばき  椿  ツバキ

巨勢山のつらつら椿つらつらに
   見つつ偲はな巨勢の春野を
                   坂門人足 巻一 54


『読み』こせやまのつらつらつばきつらつらに みつつおもわなこせのはるのを
『歌意』巨勢山に連なって咲いている椿の花をつくづくと眺めながら、巨勢の春野を思い出していよう


シンプルで古風なヤブツバキ


生育状態の良いものは数多くの花をつける     魅力的な改良種が数多く栽培されるようになった

日本原産種
 ツバキは日本原産の常緑樹で、日陰湿潤を好み、直立しやすく高木にもなります。大きな花と厚く光沢のある葉が特徴で、庭木としてはトップクラスの人気を誇っています。大輪種や八重など、外国で改良され逆輸入されたものも数多く流通するようになっていますが、日本産ツバキが、西洋に渡ったのは近世になってからです。特に19世紀には、ヨーロッパでツバキブームが起こるほど人気を博すようになっていて、ツバキの花を付けた娼婦をモチーフにしたオペラ「椿姫」はあまりにも有名です。ツバキは、花や葉の美しさに加え、枝が強いことで古くから武器や農具などさまざまな材としても使用されてきました。日本書紀の巻第七景行天皇紀には、「則ち海石榴樹を採りて、椎に作り兵にしたまふ。」との記述があり、兵具としての使用が示唆されています。ただ、サカキと同様に神聖な樹木として扱われる一方、花が首からポトリと落ちるように散るために、その後の武家社会では嫌われてきたという面も持ち合わせているようです。
 歌の巨勢山は、奈良の南西に位置し、持統上皇の紀伊の行幸に伴った坂門人足が、道に並んで植えられた紅色の椿を詠んだ歌とされています。「つらつら」の表現は、「連なる」の意で、ツバキが道に連なって植樹されている様子を表したものでしょう。
 なお、ツバキの葉や枝にはアルミニウムが多く含まれ、木綿や紙の繊維に植物の色素を付着しやすく働きすることから、古くから染色の助剤(媒染剤)としても利用されてきました。次の歌では地名の海石榴市(つばいち)と染色に使う「ツバキ」をかけ、紫草による紫根染めにツバキの灰が使われたことが詠まれています。

 紫は灰指すものそ海石榴市の 八十のちまたに逢へる児や誰
                     作者不詳 巻十二 3101


  管理者:大伴妬持