万葉の花とみどり
つきくさ  鴨頭草  ツユクサ

 鴨頭草に衣色どり摺らめども

うつらふ色と言うが苦しさ 
作者不詳 巻七 1339 
『読み』つきくさにころもいろどりすらめども うつろういろというがくるしさ
『歌意』鴨頭草で衣を染めて摺りたいけれど、色が変わりやすいというところが難しいところです。
ミッキーマウス花などとある人曰く、なるほど大きな耳を持つネズミ相。普段は雑草としてほとんど顧みられることのない草花。
うつろう色
 鴨頭草(ツキクサ)とは、庭や道ばたに生える雑草の代表格、夏場に小さな青い花を付けるあの露草のことである。万葉時代の呼び名「ツキクサ」は、色が「付く」、あるいは染色に使う花びらを臼で「つく」に由来し、音が残ってその後「月草」という雅名がつけられたそうだ。青紫色の花びらを採ってつぶしてみるとわかるが、意外に濃い青汁が出る。この青汁は、藍染めが一般化する前までの青系の染料として使われてきたが、花びらが小さいので染料として大量に得ることはできないため、布に直接擦り付けたり、花汁を搾り筆に付けて絵の具のようにして着色する方法がとられていたようだ。
 色素は、水に溶けやすく退色しやすいので、友禅染めの下描きにも好都合であったという。歌は、その色素の移ろいやすい性質を「うつらふ色が苦しさ」と表現したものである。この移ろいやすい青い色素は、アントシアニンとフラボン系の物質からなる金属錯体の一種、コンメリニンと呼ばれるもので、日本の花色の研究陣が初めて結晶化に成功し、ツユクサの学名「コンメリナ」より名づけたものだ。

管理者『妬持』の声
 
雑草として、普段ほとんど顧みることがなかったのだけれども、手で色水を絞り出してみると意外に濃い色素です。なるほど、染料に使われてきただけあり、数個の花で、両手が真っ青になりました。それにしても、世の中にはきちんと研究している人達がいるもので、日本が世界に先駆けて成分の結晶化にまで成功しているとは。そのうち、医薬や工学分野での利用なんてこともあるやもしれませんね。

万葉歌象『育良』
 月草(露草)で染め上げた色がどんなに美しいものか、御存知でしょうか。透明感に溢れ  いかにも瑞々しい。 その鮮やかさには目を奪われるばかりです。この歌が単なる染め物の歌ではないということはお分かりでしょう。これは比喩歌でもあります。ものにたとえて自分の胸の内を伝えるというものですね。「鴨頭草に衣色どり 摺らめども」この歌を口ずさんでみますと 誠に美しいリズムだということがわかります。この歌を詠い上げた女性は 相手の男性との結婚を心に決めている。けれど「うつらふ色と言うが苦しさ」世間の人々は口々に彼のことを悪く言う。「あの人はあまりに不誠実だ」と。だからやめておきなさいと。最後の「苦しさ」という言葉。「哀しさ」ではなく「苦しさ」となっているだけに 胸に残ります。この気持ち、女性の皆さんでしたらもっと良くお分かりになるのではないでしょうか。