万葉の花とみどり
う め  梅 鳥梅  ウメ

 わが園に梅の花散るひさかたの
     天より雪の流れ来るかも
                大伴旅人 巻五 822

『読み』わがそのにうめのはなちるひさかたの あめよりゆきのながれくるかも
『歌意』わが家の梅の花が散っている… はるか遠くの天から雪が流れ落ちて来るようだなあ

春の到来を象徴する梅:香る花として万葉集における扱いは格別

春の到来に香る花
 
梅は、中国原産とされるバラ科植物。豊富な品種を擁するポピュラーな種で、開花の季節になると名所といわれるところは、香りを求める人でたいへんなぎわいです。古来より、ほのかな香りとともに他の花に先駆けて咲く梅は、春の到来の象徴として多くの人々に親しまれてきました。もちろん万葉集での扱いも格別で、梅が詠み込まれた歌は、第一位のハギ(142首)に次ぐ2位(119首)となっています。梅は、古事記や日本書紀には全く登場せず、万葉集でも8世紀に入ってからの歌になるので、7世紀後半までに大陸に渡った遣隋使や遣唐使、僧侶が苗を持ち帰り、その後急に普及したものと思われます。万葉歌人はこの初春に香る花に異常なまでの関心を示したようで、特に大陸の影響を受けた貴族達は、梅を詠み込んだ歌を多く残しています。後述の歌も、天平二年(730)正月に太宰府の大伴旅人邸での宴の際に詠まれたものです。先進的で大陸文化に通じた大伴一族は、格好の歌の題材となる梅をいち早く自からの庭園に植栽して鑑賞したのでしょう。

 妹が家に咲きたる花の梅の花
     実にしなりなばかもかくもせむ

         
藤原八束 巻三 399

 歌意としては、「あの娘の家の庭に咲いている梅の花であるが、実がなったらどうしてでも自分のものにしたいものだなあ。」くらいの意味になります。もう一首、

 
春の野に霧立ち渡り降る雪と
      人の見るまで梅の花散る

            筑前目田氏真上 巻五 839

 また、万葉からは少し時代が下りはしますが、春、梅、太宰府と言えば、太宰府に左遷された道真が、都を思いつつ詠んだ歌が想起されます。『東風吹かばにほい起こせよ梅の花 あるじなしとて春を忘なそ』はあまりにも有名。




梅とうぐひす
 鳥梅(うめ)という漢字の鳥の方ですが…梅と言えば鶯。梅の花のつぼみがほころびはじめると、どこからともなく聞こえてくるのが「ホーホケキョ」。私たちには、春を告げる鳥の声と言えばウグイスというように刷り込まれているようで、万葉歌でも梅とウグイスがセットになっているものが実に30首近くも詠み込まれているのです。なお、うぐひすの「う」は「生える」、「ぐひ」は「食い」、「す」は「巣」の意味で、「草むらに巣くう鳥」の意だそうです。次の歌もやはり、旅人邸での宴の際に詠まれたものです。

 春去れば木末隠りてうぐひすそ
     鳴きて去ぬなる梅が下枝に

          小典山氏若麻呂 巻五 827



『管理者の声』
 春の到来を告げる花とはいいますが、実際はまだまだ厳冬の真っ最中にぽつぽつ咲き始めることもあります。しかし、新緑をまだ見ぬ時期に、ほのかな梅の香りがしてくると、長い冬がほんとにあと少しで終わるのだなと感じられるわけです。


 大伴妬持