万葉の花とみどり
ゆづるは 弓紘葉 ユズリハ
 古に恋ふる鳥かも弓紘葉の
御井の上より鳴き渡り行く 
弓削皇子 巻二・111
『読み』いにしえにこうるとりかもゆずるはの みいのうえよりなきわたりゆく
『歌意』(天武天皇がご在位の)昔を恋慕う鳥でしょうか、ゆずり葉の御井の上を鳴きながら渡って行くのは・・・。

数mにもなる常緑樹:旧葉が淡緑の新葉と入れ替わる
世代を譲る「ゆづる」の意
 作者の弓削皇子は天武天皇の第六皇子、天智天皇の皇女で大江皇女を母に持つ。このときの弓削皇子はまだ若かったと考えられるが、他の皇子達からはやや離れた境遇にあった。歌は、持統天皇が吉野宮に行幸した際に、同行した皇子が都に残った額田王に贈ったもの。このとき額田王はかなりの歳(60歳程度?)ですでに昔日の輝きは失われつつあり、疎外感を感じていた弓削皇子自身の心情と通じるものがあったのだろう。昔を恋慕う鳥とは激動の時代に生きている作者であり、過ぎ去った時代を想起して、自身の寂しい境遇を詠み込んだものだ。壬申の乱を経て、皇位継承を巡る朝廷内の争いは、天武崩御後いよいよ血なまぐささを増し、皇族同志が互いに疑心暗鬼に陥る。朝廷はその後150年以上、平安の安定期まで揺れ続き、弓削皇子の厭世観に似た不安は、史実として刻まれることになる。
 
ユズリハは高さ数mになる常緑樹で、厚めで大きく長い葉が特徴。春になると淡緑色の新葉が濃緑色の旧葉に取って代わり、見事な世代交代を演ずる。劇的に新しい葉と入れ替わることが、親が子どもの成長を期して「譲る」という意を連想させる。古来より正月の飾り物などの縁起物とされてきた植物である。
<ゆづるはを詠んだ歌>
あど思へか阿自久麻山のゆづる葉の 含まる時に風吹かずかも
作者不詳 巻十四 3572 
「歌意」一体どう思っているの?阿自久麻山のゆづる葉がまだ開かないつぼみなのに、そのうち風が吹いてきて無理やり開かせてしまうかもしれないのに・・・。
厚く光沢のある葉が特長 茎の赤い部分も美しい
ブドウのような房の実がなる
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